著者 : 名無しさん@ピンキー ID:KQ+PpqtD 氏
その3 ー >>758
開始:06/03/31
最終:05/05/01
その4 − >>058
【 らんま止水桶ネタ(八宝斎編・良牙編・蛇足編) 】
ぴたり、ぴたりと小さな足音が板張りの廊下に響く。
天道家の誰もが寝静まった深夜二時。
至極健康的な生活を送るこの一家の大部分の人間は、こんな時間に起きていることは滅多に無い。
ただ一人、最凶最悪の居候老翁、八宝斎を覗いて。
彼の手には水の入った桶があった。
一見普通の木製の桶にしか見えないその桶は、ただの桶ではない。
それは中国のジャコウ王朝の秘宝、止水桶だった。
とある闇ルートでその桶を先日入手したばかりの八宝斎は、
更にもう一つの秘密兵器を携え、目的の部屋へと辿り着くと、静かにその引き戸を開けた。
妖怪の干物のような顔に、にやりと不敵な笑みが浮かぶ。
これから先の愉しみを考えると顔が緩んで仕方が無い。
そこにいたのは父親と共に熟睡している早乙女乱馬だった。
彼は水をかぶると女になってしまうという悲劇的な体質を持っている。
八宝斎は彼の安心しきっている寝顔をじっくりと確認すると、
おもむろに桶の水をひしゃくで掬い、彼のからだ全体に振りかけた。
「ぶわっ! つめてっ! な、何しやがる!?」
響いた声は甲高い女のものだった。
すぐさま起き上がった彼女は、未だ寝惚けた顔をしながらも、
自分に水をかけた人物を探した。
心の中で見当はついている。こんなことをするのは一人しかいない。
「ひょーっほほほほほ! らーんまっ♪」
「じじい……てめぇ……! つめてーじゃねーかよ!」
「おー、すぃーとぉ〜」
「顔すりよせんじゃねえっ! きもちわりいっ!」
胸にしがみついていた八宝斎を引き剥がすと、らんまは立ち上がった。
下着までぐっしょりと濡れてしまっている。
まだ春先の寒い夜だ。一旦熱いシャワーでも浴びて温まりたい。
らんまは自分に冷水を浴びせかけた憎い相手をきっと睨みつけると、 風呂場へと向かった。
冷たく張り付いてくる濡れた衣服などは無造作に脱ぎ捨て、
らんまはさっさとシャワーに向かい、勢いよくその蛇口をひねった。
最初に少しだけ冷たい水が出たが、すぐに熱いお湯がノズルから噴き出してきた。
らんまは滝のように落ちるその湯を頭からかぶり、自分の身体が変化するのを待った。
湯を浴びていると、全身の疲れがどっと出るような気がして、ため息が漏れる。
そして、寝惚けていた頭も段々冴えてきて、はたとらんまは気付いた。
全身で湯をかぶっているはずなのに、元の男の姿に戻らない。
予想していなかった悲劇的状況に、らんまは思わず悲鳴をあげたくなったが、
今が深夜だということを思い出して、慌てて自分の口を押さえた。
「ど……どういうことだ……? 男に戻れねえなんて……」
ひとりごちたらんまは、ふと背後に異様な気配を感じ、
無意識のうちに裸の胸を腕で覆って隠しながら振り向いた。
「くっくっく。このときを待っていた……」
当然、そこにいたのは八宝斎だった。風呂場なのに服を着込んだままだ。
その小さな右手にあった見覚えのある桶に、らんまの脳裏に忘れかけていた思い出がよみがえる。
「その桶……! 止水桶!?」
「ほぉ。よく知っておるのぉ、らんまよ。」
以前その桶で汲んだ水を使って女の姿に固定されてしまたらんまは、良牙やムースと共に危険な旅に出、
ジャコウ王朝の末裔、ハーブたちとの死闘の末、やっとの思いで男の姿を取り戻すことができたのだ。
あのときの悪夢を繰り返したいわけがない。
らんまは八宝斎に詰め寄った。
「おう、こらじじい! てめえ、開水壺は持ってるんだろうな!?」
開水壺とは、止水桶と対となる秘宝で、止水桶の姿を留めておく効果を打ち消すものだ。
だが、八宝斎にとっては初めて耳にする単語だったようだ。
襟首を掴まれても、八宝斎はきょとんとした顔で、悪びれる様子もない。
「なんじゃそれは? わしが手に入れたのはこの止水桶だけじゃぞ」
残酷な事実を告げる言葉にらんまの動きが一瞬凍りつく。
すかさず、八宝斎はその女体に飛びついた。
「湯をかぶっても女のまま……最高じゃあ!」
八宝斎は皺くちゃの顔をすり寄せながら、爬虫類のような手をらんまの乳房に這わせた。
おぞましい感触。らんまの背筋を冷たいものが伝う。
「離れやがれ! エロじじいっ!」
即座に引き剥がされ、風呂場の隅に投げ飛ばされた八宝斎は、
打ち身の痛みも気にするようすもなく、またも不敵な笑みを浮かべた。
彼は、もう一つの秘密兵器をらんまに見えない角度で取り出していた。
八宝斎の不気味な笑顔に、らんまは凍りつくような恐怖を覚えた。
しかし、辺りに漂う甘い花のような香りに気付いたときにはもう遅かった。
突然糸が切れたように、らんまは自分の身体から力が抜けてしまったのを感じた。
みずみずしい裸体を晒したまま、風呂場の床に崩れ落ちるように座り込んでしまう。
八宝斎が自分の近くに寄っても、追い払おうと手を振ることさえできなくなった。
「な……なんだ……? からだが……うごかね……」
かろうじて声は出せるようだ。
しかし、身体に力が入らない以上、だらしなく股を広げたままの姿を、
淫欲の塊とも言える八宝斎の眼前に不本意ながらも提供してしまっている。
ひどく不快だ。しかし、どうすることもできない。
「くくく。これは従女香という。男には効かぬが、女の動きを封じるのじゃ」
八宝斎の左手には香炉のようなものが乗っていた。
これもまた、ジャコウ王朝でよく使われたものだった。
呪泉郷の力で女にした動物たちの多くは、人間の女の姿をとっていても、所詮動物。
そう簡単に人間の男たちに屈服したりはしなかった。
ジャコウ王朝の男たちは、腕力によってそんな女たちを無理矢理手篭めにしたりもしていたが、
この従女香が開発されると、男たちはこぞってこれを使ったのだ。
「なんてもんを手に入れやがったんだ……」
凄まじいほどの寒気がらんまの身体中を駆け巡った。
心臓が凍りついてしまったかのように、全身から血の気が失せる。
シャワーのお湯が降り注ぐここは、とても暖かいはずなのに、
まるでシベリアの永久凍土の中にいるような気分だ。
こんな危険な香が世の中にあるとは。
しかも、それを持っているのが邪悪なスケベ心をとったら何も残らないような八宝斎だとは。
らんまの脳裏に浮かんだのは、あかねを始めとした、身近な女性たちの笑顔。
そして、彼女たちの平穏な日々が残酷にも崩されていくことへの途方もない恐怖。
しかし、そんな不安は次の一言で消え去った。
「これは呪泉郷で女になった者にしか効かぬらしいのでな。それが残念じゃあ……」
その言葉の意味を理解し、らんまは安堵の表情を浮かべた。
だが、一瞬にしてその表情は歪む。
「こ、こんのくそじじい……っ! んなとこ触るんじゃねえっ!」
らんまが触られたのは、広げられた股の中心部。
その周囲も含めて円を描くかのように、八宝斎の小さな指がなぞった。
麻酔と違って、身体は動けないくせに、触覚は失われてはいない。
むしろ感覚は研ぎ澄まされて強烈に伝わるようだった。
「ひょーっほほほほ。こんなときでないと触れぬのでな。女体の神秘じゃあ!」
はしゃぐ八宝斎と対照的に不快感をあらわにするらんま。
一般女性たちが被害に遭わないというのは救いだったが、自分の身が危険なことは変わらない。
現に全く動けないのだ。今のらんまはただ触られるだけの人形も同然だった。しかも、素っ裸だ。
「やっ……やめんかっ……ばかっ……」
吸い付かれるように乳房を舐められる。
触られていない方の乳首は赤く染まり、はちきれそうなほどピンと立っている。
不快だと思うと同時に、別の感情が胸の奥からわき上がって来るのにらんまは気付いていた。
未だ降り注ぎ続けているシャワーのお湯がその肌で跳ね、殊更に女体の色香を強調している。
八宝斎は無遠慮に様々な場所をベタベタと触っている。
らんまの息が徐々に荒くなっていく。
「ほう……可愛いのう、らんま。じゃが、こうしたらもっとかわゆいぞ」
背中にほお擦りをしながら、八宝斎はらんまのおさげをほどいた。
少し長めの髪がばさりと肩に落ちる。
すくようにその髪をかきあげられ、首筋に八宝斎の吐息を受けたらんまは、小さく声をあげた。
「ん? 髪が引っ張られて痛かったかの?」
「べ……別に……そんなんじゃねえよ」
声に気付かれ、問われたらんまは、顔を赤らめて目を伏せた。
先ほどから強く感じている欲望を見透かされたような気がして、恥ずかしくてたまらないのだ。
身体を触られているうちに、不快感が快感となってきていた。
もっと触れて欲しい、舐めて欲しい、強く吸い付いて欲しい。
そんな気持ちを言葉にしてしまいそうな自分が嫌だった。
自分は男なのだ。女の快楽などに溺れてはならなかった。
「あんっ……」
しかし、どんなに強く自分を制しようとしても、限度があった。
声を押し殺していても、小さく出てしまう声を止めることができない。
乳房を撫で回され、波のように押し寄せてきた快感に、思わずらんまは高い声をあげた。
八宝斎の動きが止まる。ようやくらんまが息を荒くしていることに気付いたようだった。
「くくく。らんま、やっと女体での快楽に目覚めたようじゃの」
ひどく嬉しそうで下劣なその声に、すがりついてしまいそうな自分を、唇を噛んで抑えた。
らんまの全身をけだるさと微熱が駆け巡る。
このまま堕ちていけたら気持ちが良いのかもしれない。だが、屈するわけにはいかない。
「だっ……誰がだよ……。おれは男だっ……!」
虚勢を張ったらんまは、次の瞬間、情けなくも泣くような声をあげた。
ぬるっとした触感が肌の上を滑ったのが、それまでにない強烈な快感として襲ってきたのだ。
「はぁっ……はぁっ……いやぁ……! だめぇ……やめて……」
「いやじゃいやじゃ! もっと色っぽい声をあげて頼んでくれなきゃいやじゃ!」
八宝斎の手には石鹸が握られていた。らんまの肌の上を泡が滑っていく。
乳房に、脇腹に、太股に、泡まみれの手で撫でられ、たとえようのない快感が様々な神経を刺激する。
「や……め……て……。お願い……」
らんまはうるんだ瞳で懇願した。こうなっては男の意地など無いも同然だ。
恥をしのんで女になりきって、甘い声を出す。
「ハンサムでダンディーな八宝斎様、どうかお願いしますと言ってくれなきゃいやじゃ」
八宝斎は楽しそうにらんまの身体に泡を塗りつけていく。
どうせらんまがそんな台詞を言うはずがないと思いながらも、いじめるために言っているのだ。
しかし、既に快楽で頭が上手く働かなくなっているらんまは、ためらいもなくそれを復唱した。
「は……ハンサムでダンディーな八宝斎様、どうかお願いします……やめてぇ……」
八宝斎の手が止まる。そして、悪知恵しか詰まっていない頭をフル回転させる。
これだけ自分を見失っている状態のらんまであれば、どんなことを強いても従うかもしれない。
「よし、お望み通りやめてやろう。そして、ここで待っておれ、らんま」
八宝斎は立ち上がり、何かを取りにいそいそと自室へと向かった。
待っていろなどといわれなくても、らんまは従女香の効果で動けるはずもない。
うつろな瞳の下に流れるのはシャワーのお湯か、はたまた涙か。
取り残されたらんまの身体の上で、お湯に押されて泡が流されていく。
「ここはどこだーーーーーっ!!!」
八宝斎が出て行ってからすぐに、入れ替わるように一つの影がらんまのいる風呂場へと侵入してきた。
その正体は響良牙。乱馬のライバルであり、天才的なほど方向音痴な男だ。
と言っても、まともに扉や窓からではない。床を突き破って出てきたのだ。
その勢いで、湯船にもたれかかるようにして座り込んでいたらんまは、
床に倒れ、横たわるような格好になっていた。
「ったく……相変わらず変なとこから出てきやがって……」
か細い声で呟いた声に気付き、良牙はらんまの方を振り向いた。
そして全裸だということに気付くと、すぐに目をそらした。
「な、な、お前こそ、そ、そんな格好で……」
正体がらんまだとは言え、うぶな良牙はその姿をまともに見ることなどできない。
耳まで赤くして、意味もなく両手の指をすり合わせながら、そっぽを向いている。
そんな良牙に、らんまは一縷の望みをかけた。
「なあ……おれをここから連れ出してくれねえか?」
「はあ? そんなもん、お前、自分で……」
「じじいに変な香かがされて全然動けねえんだよ。頼む」
良牙は仕方なく振り向いた。
裸で横たわるらんまは、髪もほどかれていて、まるで自分の知らない女のように見えた。
それに、降り注いでいるのはお湯だ。
湯気がもくもくと立っているのに、その中で女の姿を保っているらんまは、本当にらんまなのだろうか。
心臓が高鳴ってしまうのは、見慣れない女の裸を見ている所為なのか、それとも……。
「頼む、早くしてくれ。じじいが戻って来る前に」
わけがわからないながらも、良牙は素直に従った。
とりあえず、蛇口をしっかりと閉めてシャワーを止めた。実は少し気になっていたのだ。
そして、自分の荷物の中からテントで寝るときに使う毛布を引き出すと、
横たわるらんまを抱き上げ、その中にくるんだ。
そんな新しくできた荷物を胸にしっかりと抱えてから、良牙は小さな風呂場の窓から飛び出した。
「ちょ、ちょっと、待て。どこ行くんだよ!? 良牙!」
「ん? あ、ああ」
逃げ出すことに必死だったらんまは、良牙の暴走にしばらく気付かなかった。
ようやく足を止めた二人は、気がつけばどことも知れない深い森に迷い込んでいた。
「こんなとこに迷い込んでどーすんだよ! 部屋に戻してくれりゃそれで良かったのに……」
助けたことに礼も言わず、ただ自分を責めるだけのらんまに少し腹が立ち、
良牙は手厳しくも冷静な見解を述べた。
「お前、おれがそんな器用なことができると思うのか?」
良牙はひとまずらんまを土の上におろし、自分も近くに座った。
満月に近い、強い月明かりが辺りを照らしていて、お互いの顔も夜中にしてはよく見えた。
「う……そ、そういえば……」
「それに、動けないまま部屋にいたってじじいに捕まるのは時間の問題だろ」
「そう……だな……」
しおらしくなって目を伏せたらんまが、やはりただの女に見える。
可愛らしいと思ってしまう自分が恐ろしい。
そんな良牙の思いなど露知らず、らんまは先ほどまでの経緯をぽつりぽつりと説明し始めた。
一方その頃、八宝斎はようやくお目当てのものを見つけ出し、
らんまの待つ風呂場へとスキップしながら向かった。
しかし、既にそこには誰もおらず、開け放たれた窓から冷たい風が吹き込むだけだった。
八宝斎の手から高級下着がぽとりと落ちた。
それはコレクションの中でも一番のお気に入りの、シルク製の下着だった。
「そ……そんな……らんまに着てもらおうと思ったのに……」
がっくりと肩を落とし、ひざをつく八宝斎の背中に、二種類の声がかかる。
「もー、一体何の騒ぎよ。うるさくて寝られないったらありゃしない」
「お師匠様〜、一体何があったんですか?」
先ほどの騒ぎで、眠りが浅かったなびきと早雲が目覚めてしまったらしい。
そして、ただならぬ殺気が辺りに充満し始めたのに気付き、
八宝斎が風呂場をもう一度見直すと、床に大きな穴が開いている。
「わ、わしじゃない! こ、これはわしじゃないんじゃあ!!」
そして、八宝斎は激怒した早雲にこってりと絞られる羽目になるのだった。
らんまの話を聞いて、良牙はやっと状況を理解した。
止水桶のことはよく知っている。
自分もよこしまな気持ちからそれを使ってしまい、酷い目に遭ったこともあるからだ。
それを手に入れた八宝斎が悪用してらんまに淫靡な悪戯を仕掛けたことも想像に難くなかった。
しかし、感情はそれに追いつかない。
毛布にくるまって冷えた手を温めようと息を吹きかけているらんまを、
抱き締めてやりたいと思う心が良牙を苦しめていた。
らんまの方は、まだ完全に動けるとは到底言えなかったが、
少し手を動かすくらいのことはできるようになっていた。
香の効果が切れ始めているのだろうか。
「おれ……もう男に戻れないのかな……」
口にしたことで余計に実感してしまう。
開水壺を八宝斎が持っていないとなると、探さなければならない。
だが、確かそれは、ハーブたちが中国に持ち帰ったはずだ。
今はどこにあるものやら見当もつかない。
涙ぐんでしまったらんまに、良牙は驚き、狼狽した。
「そ、そんな顔すんなよ、らんま。朝になったら探しに行こうぜ、な?」
「うん……」
元気づけようと声をかけても、らんまはちっとも元気な顔を見せないし、声にも覇気がない。
良牙は落ち着かなかった。
自分の目の前にいるのは、どう考えたって自分が知っているライバルの男ではない。
あまりに女々し過ぎる。どうしたって、傷つき、泣いている一人の女にしか見えない。
そんな良牙の思いをよそに、らんまが再び口を開いた。
「良牙」
「なんだよ?」
「ありがとな。助けてくれて」
苦笑の表情とその言葉で、良牙の中の何かが切れた。
可愛い。可愛らし過ぎる。
元が男であるというのに、これほどまでにらんまのことを可愛らしく思ってしまうとは。
気がつけば良牙は、毛布の上かららんまを抱き締め、その場に押し倒していた。
欲望の赴くまま、濡れた髪が張り付く白いうなじに唇を押し当て、片手で脚の辺りをまさぐる。
声でしか抵抗できないらんまは出せる限りの声でわめいた。
「馬鹿! 何すんだよ! おれは……!」
「女だろ」
『男だ』と言いかけた言葉を遮り、断言されて、らんまは目を見開いた。
良牙はらんまの毛布を剥ぎ取り、荒々しく乳房を鷲掴みにした。
痛みに耐えかね、らんまは悲鳴をあげた。
「今のお前はどこからどう見たって女だ。男にこんなものはない」
らんまは唇を噛み締めた。
八宝斎から逃げてきたというのに、良牙に似たようなことをされては意味が無い。
そればかりか、良牙の方が体格が良い分、もっと恐ろしいようにも思えた。
「わかった。好きにしろよ。このおれにキスとかできるんならな」
身体が動かない以上、いくら抵抗したところで無駄だと悟り、半ば自棄になってらんまは言った。
しかし、らんまは迂闊だった。
未だ心は男のらんまには、男とキスなどガムテープ越しでも無理なことだが、
良牙の目には、らんまは女だとしか映らないのだ。
「んんぅっ……!?」
良牙はためらいもなく唇を重ね、らんまの口内を舌で蹂躙した。
最初は力任せにあちこちを揉み潰すように触っていた良牙も、段々その力を緩め、
壊れ物を扱うように優しくらんまの肌に触れるようになっていた。
そうして、女として扱われるうち、らんまの中に再び淫らな欲望が湧き上がってきた。
「ら、らんま……?」
良牙は自分の顔がおかしな場所にあるのに気付いて、身を起こそうとした。
しかし、引き戻される。
少しだけ動かすことのできる手で、らんまが良牙の頭を自分の胸に押し付けていたのだ。
「ここ……が……いい……」
顔を赤らめ、ためらいがちにねだるらんま。
良牙は喜んでその求めに応じる。彼も触れてみたかったのだ。
その豊満な土台にちょこんと乗るようにくっついている蕾のような乳首を。
そっと口に含んで転がしてやると、らんまは嬉しそうに声をあげ、良牙の頭を撫でてくる。
「いい……いいよぉ……良牙……もっとして……!」
恥も男の意地も無かった。
らんまはただひたすら快楽を求め、あちらこちらの快感を得られる部分に良牙の手を導いた。
更に、こと細かにいちいちどんな触り方が感じるかを説明し、良牙もそれに応じた。
そして、良牙の指先が脚の間に伸び、確実に陰核を捉えると、あまりの刺激の強さに、
らんまは身をのけぞらせた。
「やぁ……だめぇ……ああ……でも……いい……」
「どっちだよ」
「んっ……ごめ……い……いいよ……変になりそう……」
「今でも十分変だろ」
「はぁ……うん……そ、そうだけど……」
吐き出される言葉は、もう女そのものだった。
良牙が指を動かすたびに、くちゅくちゅと水音が響き出してきて、
らんまも十分に感じているのだと思わせた。もう我慢の限界だった。
良牙は着ていたものを脱ぎ、硬くなった自身の一部をらんまの身体に誇示するように押し付けた。
「入れても良いのか?」
「うん……入れて……良牙……」
頬を上気させ、とろんとした目でらんまが誘う。
良牙が腰に力を入れた瞬間、その表情は苦痛に歪んだが、
らんまはぐっと堪えて、やめないようにと促した。
気持ちが萎えないように、らんまの顔を見ないように目を閉じながら、良牙は一気に貫いた。
「ああああああっ!」
「すまん、痛いか?」
「うん……でも、大丈夫。やめないで……」
「そうか、悪いな。少し我慢してくれよ」
良牙はゆっくりと腰を動かし始めた。
そうしながら、らんまの身体をしっかりと抱き締め、首筋に、顔に、と唇を当てていった。
耳に到達すると、それまで以上にらんまが嬉しそうな声を出すので、
良牙はその耳全体を口に含み、穴に舌を這わせた。
ぴちゃぴちゃと卑猥な音が耳の内側で響いてきて、らんまは頭がおかしくなりそうだった。
「はぁん……だめ……りょおが……そんなの……」
「嫌か?」
「いや……っていうか……」
「じゃあ続けてやる」
「ああん……うそぉ……」
良牙は容赦なく腰を打ちつけながら、らんまの耳を蹂躙し続けた。
香の効果などはもうとっくに消え去っていたが、らんまは気付かなかった。
らんまの腕は自然と良牙の背中に回り、脚も腰の辺りに絡み付いていた。
激しいストロークは尚も続く。
自分が壊れてしまいそうなほどの快感と、破瓜の痛みの板ばさみ。
しかし、それもそう長くは続かず、良牙の射精をもって終わってしまうのだった。
解放された瞬間、らんまの心は安堵の気持ちで満たされたが、少しだけ物足りなさが残った。
二人とも息を荒くしながら、無造作に広げられた毛布の上に身を投げ出していた。
先にらんまが口を開いた。
「良牙」
「なんだよ?」
「後悔……してないか?」
良牙は答えなかった。答えられるはずもなかった。その通りだったからだ。
出すものを出してしまった瞬間、良牙の中では物凄い勢いで後悔の気持ちが押し寄せて来たのだった。
いくら女の姿をしていても、らんまは自分が思いを寄せる相手ではない。
むしろ、その恋敵であり、男なのだ。
何という恐ろしいことをしてしまったのかと自分を情けなく思う気持ちや何やらで混乱していた。
だが、何も言わなくても、背を向けた良牙の態度でらんまは感じ取っていた。
「してるんだな、後悔」
吐き捨てるように言ったらんまが悲しげで、良牙の胸は切なさに締め付けられた。
しばらくは、まともに顔を見られそうにない。
良牙は背を向けたまま、身を縮めた。
「ま、まあ、こ、このことはお互い忘れよう、な。おれも忘れるからさ」
先ほどと立場が逆転してしまった。
元気をなくした良牙を、先ほどまで涙に濡れていたらんまが慰めている。変な関係だ。
気がつけば、長い夜が明けようとしていた。朝日の眩しさに、らんまは目を細めた。
「つか、ちっとも寝てねーじゃん……おれたち……」
そして、見知らぬ深い森だと思っていたそこが、学校の敷地の一部だとわかり、
慌ててらんまは良牙を叩き起こした。
良牙の替えの服を借り、天道家に戻ったらんまは、荒々しく出迎えられた。
何かやかんのようなものをいきなり頭に投げつけられたのだ。
「らんまーっ! わしを残してどこ行ってたんじゃあっ! お前のせいで、わしは……わしは……」
八宝斎だった。頭に数え切れないほどのこぶを作っている。
「うるせーくそじじー! おれこそじじーのせいで酷い目に……」
と、痛む頭をさすりながら、らんまがふと投げつけられたやかんに目をやると、
それは見覚えのあるデザインだった。
「開水壺!?」
八宝斎はその正式名と用途を知らなかったようだが、止水桶と共にしっかり手に入れていたのだ。
そして、お湯がすぐに沸く便利なやかんとして、お茶を淹れる時に使っていたのだった。
「なんだよ、あったんじゃねえかよ、くそじじい」
らんまはぐりぐりと足で八宝斎の頭を踏みにじりながら、心のどこかでほっとしていた。
後ほど開水壺を使って男の姿を取り戻した乱馬は、危険な香と香炉を密かに処分し、
止水桶と開水壺も質屋に売り飛ばして、風呂場の穴の修復費用の足しにした。
(終わり)