著者 : 名無しさん@ピンキー ID:Wxh3ScBz 氏

その3 ー >>490
開始:05/11/22
最終:05/12/09
その3 − >>534

【 良牙×右京(別バージョン) 】


「ここはどこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 
その台詞は、良牙にとっては常套句だった。
別に言いたくて言っているわけではない。
常識では考えられないほどの方向音痴である彼にとっては、
この台詞は自然と、必要に迫られて出てくるものだった。
今日もいつものようにこの台詞を吐き、良牙はとんでもないところから勢い良く顔を出した。
 
「あ、あのよー、良牙。ちったぁおめー場所ってものを考えて出て来いよ。」
 
聞き覚えのある声を聞き、良牙が振り向くと、そこには上半身裸状態の乱馬がいた。
良牙が辺りを見回すと、そこは和室のようで、彼の頭の上には畳が一枚乗っかっていた。
よく見れば、乱馬の姿の向こうには右京がいた。
それも、ほとんど体に何もつけていない状態で。
右京は、突然現れた良牙に気付いて、大事な部分を必死で隠そうとしていた。
 
そう、ここは右京の部屋だった。
お好み焼き店舗の裏側にある、普段は食事をするときに使う部屋だった。
一体どこをどうしてたどり着いたのかは不明だが、良牙はそんな部屋の床下から
畳を押し上げて顔を出していたのだ。
 
「いっくらおめーが方向音痴だからって何もこんなときに……。」
 
乱馬が歯噛みしながら文句をつけても、良牙にはほとんど聞こえていなかった。
良牙は悲しい男のさがで、半裸の右京の姿にしばし心を奪われてしまっていたのだ。
男と女が二人、裸になってしていることと言ったら……? 
少し間をおき、状況を把握した良牙は、逆に乱馬に対して激昂した。
 
「ら、乱馬ぁ! 貴様、あかねさんはどうした!? なんで右京なんかと……!」
 
乱馬の肩に掴みかかる良牙に、右京の怒りと恥じらいの混じった声が飛ぶ。
 
「右京なんかとってなんやねん! 人の恋路を邪魔しよってからに!」
 
思わず振り返り、右京の剥き出しになったままの白い肌を目にしてしまう良牙。
慌ててすぐに視線をあさっての方向にそらし、気まずい雰囲気を何とかしようと言葉を探す。
だが、焦っているためか何も思い浮かばず、ただ、あー、うーなどと、
意味のある言葉にならない声を漏らす良牙の首根っこを、乱馬が掴んだ。
そしてそのまま、店の外に引きずり出す。
 
「おれはな、うっちゃんに決めたんだよ。もうあかねも他の女も関係ねえ。
 だから邪魔すんじゃねーーーっ!!」
 
自慢のキック力で乱馬は良牙を遠く彼方へと蹴り出した。
良牙は澄み切った夜空のお星様になった。


一夜明けたその日は日曜日だった。
良牙は天道家に近い空き地にテントを張っていた。
一晩中ずっと歩き回ってたどり着いたのがそこの場所だった。
だが、良牙にとっては、全く未知の土地にたどり着いたように思えていた。
彼がしょっちゅうテントを張るいつもの空き地だと気付いたのは、
昼間、乱馬がそこを通りかかってからだった。
 
「よっ! 良牙じゃねーか。」
「ら、乱馬!? なんでこんな日本の果てにお前がいるんだ?」
「あのなあ……。ここは近所の空き地だっつーの……。」
 
良牙は、はっと昨日のことを思い出し、乱馬の様子を伺った。
どうやら随分機嫌が良いようだ。鼻歌交じりで、顔がにやけている。
あの後、上手くやったのだろうか? 
 
「そういえばよー、おめー、なんであかねが良いんだ?」
 
唐突にそんなことを尋ねられても、良牙には上手く答えが出ない。
乱馬は良牙の様子をにやにやと眺めて、畳み掛けるように続ける。
 
「お前さあ、ひょっとして、初めて優しくしてくれた女があかねだったから
 あかねにこだわってるだけじゃねーのか?」
 
カップラーメンを食べようと沸かし始めた湯が沸いたようだ。
湯気が辺りにほんのりと立ち込める中、良牙が背に炎のようなオーラを纏って立ち上がる。
 
「断じて違う! おれにとってあかねさんは……」
 
と、良牙があかねに対する切なる思いを打ち明けようとしたときだった。
遠くの方からやけに明るく可愛らしい女の声が響いてきた。
 
「乱ちゃーん! そこで何してんのーん?」
 
右京だった。
その手には何か箱のようなものを下げ、あいている方の手を
大きくこちらに向かって振っていた。
乱馬を見つけた喜びか、満面の笑みをたたえながら走って来る。
しかし、その足元に小さな石ころがあるのに右京は気付かなかった。
 
「うっちゃん、あぶねえっ!」


乱馬が声をあげるのとほぼ同時だった。
右京は石ころに足を取られ、走ってきた勢いで思いっきり前につんのめってしまった。
 
(うわっ……! 転んでまうっ……!)
 
思わず目を閉じてしまった右京だったが、その目を開ければ、
自分が転倒しなかったことに気付いた。
右京の足元の危険にいち早く気付いた良牙は、右京が自分たちの方に走って来る前に、
右京に猛スピードで駆け寄り、彼女が倒れる前に支えたのだった。
 
「お、おおきに……助かったわ……良牙……。」
 
と、礼を述べた右京だったが、その支えられている部分の感触に気付いて、
態勢を立て直した瞬間、良牙の頬に平手打ちを食らわせた。
 
「どっ、どこ触ってんねん!」
 
良牙はそうされて初めて、自分の手が右京の胸を触っていた事実に気付いた。
ほんの一瞬の出来事だったが、確かに柔らかな触り心地を感じていた。
少しだけまだ温かいような気がする。
 
「りょ、良牙、てめー、うっちゃんに何しやがる!」
 
怒り狂った乱馬に襟元を掴まれ、良牙は焦る。
 
「ご、誤解だ! じ、事故だろっ!? なあっ?」
 
良牙は右京に助けを求めるように視線を送るのだが、右京は目を合わせようとはせず、
顔を赤くしてそっぽを向いていた。
そんな右京を横目に見て、乱馬は良牙の耳元で囁く。
 
「うっちゃんに手出したらぜってー許さねーかんな。」
 
良牙が聞いたこともないくらいに低く、腹の底に響くような声。
今までよりも遥かに、乱馬は右京のことを大事に考えているようだった。
良牙が大人しく言葉にうなずき、凍りついたように動かなくなると、
乱馬は右京の元へ駆け寄り、そのまま彼女と一緒に歩き出した。
 
「うっちゃん、もしかして、これから出前?」
「そ、そうやねん! うちな、お得意様に頼まれてな……。」
「ははっ。そっかー。おれも一緒に行っていい……?」
「勿論や、乱ちゃん、うち嬉しい……。」
 
二人の声がどんどん小さくなっていく。
良牙は放心したままその場にただ立っているだけだった。


次の日の夜。良牙は少しでも右京や乱馬のいる街から離れようと、
歩けるだけ歩いて、ひたすら歩いていた。
 
「おれの好きなのはあかねさんで! 断じて右京なんかじゃねえっ……!」
 
そう自分に言い聞かせるようにつぶやくのだが、良牙の脳裏には、
先日見た右京の半裸の姿がちらついて離れない。
じっと手のひらを見れば、胸に触れたときの温かさを思い出してしまう。
そのたびに良牙は、頭を振って忘れようとした。
そして、ゆっくり歩き出す。
そして、歩きながら右京のことを思い出してしまう。
この繰り返しがどのくらい続いただろう? 
 
(この辺りで良いか……。)
 
手ごろな感じの街にたどり着き、良牙はテントを張れるような場所はないかと
辺りを見回した。
どこかで見たことのあるような街角だと思いつつも、気のせいだと思い込んだ。
ずっと歩き通したのだ。
見覚えのある街に見えても、ここはきっと知らない街に違いない。
とりあえず道を尋ねようと、良牙はのれんを下ろしたばかりと言った感じの
小粋な雰囲気の店の扉を開けた。
 
「すみませーん! ちょっと道を聞きたいんですけどー。」
「はいはーい?」
 
まだ若い女の声に良牙はどきっとした。
そして、店内をよく見れば、見覚えのある顔がそこにあった。
 
「なんや、良牙やないの。また道に迷ったんか?」
 
右京の姿を確認した良牙は、バナナの皮で足を滑らせたかのように後ろにひっくり返った。


最後の客を見送ったばかりの右京は、店の掃除をしようとしていた。
だが、店に来たのが良牙だとわかると、持っていた箒などをとりあえず仕舞い、
カウンターの向こうに回った。
 
「夕飯はもう済ませたん? 特別に焼いたろか?」
 
いつもと変わらない右京の料理人姿。
特に意識する必要もないはずなのに、良牙の瞳にはその姿が眩しく映った。
ここに長居するのは駄目だ。直感がそう判断した。
良牙は右京の申し出を断ろうとしたのだが、昼間から何も入れていない胃袋は収縮し、
右京にまで聞こえるほどに鳴いた。
その音を聞いて、右京はくすりと笑う。
 
「腹の虫は正直やねぇ。よっしゃ、ほな、特別メニューで焼いたるわ。」
 
そう言って、右京は残っていた生地を鉄板に注ぎ、焼き始める。
すぐに香ばしい匂いが漂い出し、良牙の食欲をそそった。
 
「あ、お代はしっかり頂くで。多少はまけてやってもええけどな。」
 
商魂たくましい右京に、良牙は呆れつつも財布を出した。
なんとか払えるほどの余裕はあるようで、少し安心する。
右京はさすがの手捌きでお好み焼きを焼きながら、話しかけてくる。


「せや。あんた、どこか行くつもりやったん?」
「いや、ただ寝る場所を探してただけだ。どこかテントを張れる場所があればと……。」
「せやったら、うちに泊まる?」
 
良牙は心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。
右京の部屋に泊まる……? 良牙の頭の中では良からぬ妄想が始まる。
 
「い、良いのか……?」
 
思わずうわずってしまう声で、良牙は恐る恐る尋ねる。
右京は全くそんなことには気付かず、笑顔で厳しい言葉を放った。
 
「ええよ。その隅っこにでもテント張って。そんくらいの余裕はあるやろ。」
 
良牙の描いていた淡い妄想は脆くも崩れ去る。
右京は全くそんなつもりはないのだろうが、その一言は良牙にとっては
氷河のように冷たい一言に感じられた。
 
「乱馬だったら部屋にあげてるんだよな……。」
 
小さな声で呟いた。
お好み焼きを焼く音にかき消され、良牙のその台詞は右京には届かなかった。
 
(まあ良いか。外よりはまだ暖かいし……。)
 
そう自分に言い聞かせてみても、あまり納得はできない良牙だった。


「ほな、焼けたで〜。」
 
お好み焼きが焼きあがり、どんと良牙の前に出される。
どう見ても普通の豚玉だ。特別メニュー……? どこがだろうか? 
豚肉は美味しそうな香りを漂わせているが、良牙にとってはなんだか複雑な思いだ。
 
「遠慮せんでええよ。」
 
カウンターの向こうで無邪気に微笑む右京を見ては、食べないわけに行かない。
丁寧に手を合わせながら「いただきます」と挨拶をしてから、良牙は割り箸を割った。
 
「あ、美味い。」
 
一口食べただけで、良牙は思わず感動してしまった。
右京のお好み焼きは普通のお好み焼きの数倍は美味しかった。
本来の夕食の予定にあったカップラーメンよりも遥かに素晴らしいごちそうだ。
 
幸せそうにお好み焼きを頬張っていく良牙を見て、右京は満足そうに微笑む。
彼女はこういう顔が好きだ。
良牙に限らず、来る客がこういう顔でお好み焼きを口にするのを見たくて、
右京はお好み焼き屋を続けているようなものだ。
 
「なあ……右京。」
 
良牙は箸を置いて右京に問いかける。だが、顔を見ようとはしない。
その皿にはまだ半分ほどお好み焼きが残っている。
 
「ん? 何?」
「乱馬とは……その……いつから……?」
「あ、ああ……。」
 
まだそのことを気にしていたのかと、右京は目を伏せた。
先ほどまでの幸せそうな笑顔に蔭りが出る。


「一ヶ月くらい前やな。乱ちゃんに屋上に呼び出されて、そんで……。」
 
右京が語り始める。
学校での乱馬の突然の呼び出し。告白。そしてその場で初めてのキスをしたこと。
それから、二人は周囲に知らせることなく交際を始めたのだった。
 
「乱ちゃんはまだあんまり公表はしたくないみたいなんやけど、
 この間あんなとこ見られたし、今更やな。まあ、あんた一つの胸にしまっといて。」
 
馴れ初めは大体わかったが、良牙にとって重要なのは、その後だ。
どこまで二人は進んでいるのか。初体験はいつなのだろうか。
だが、それを深く聞こうとするのも、何だか下世話な感じがしてしまい、はばかられる。
良牙は間を繕うかのように、手元にあったグラスの水を一口飲んだ。
 
「せやけど……。」
 
ためらいがちに右京が話し始める。
良牙は彼女の方を向き、どこともなく遠くを見つめる悲しそうな瞳を見つけた。
 
「乱ちゃんとはまだ最後まで行ってへんねん。」
 
再びお好み焼きに箸をつけようとしていた手が止まる。
どくんと一つ大きな鼓動が良牙の胸を叩いた。
 
「え……? なんで? だって、この間……。」
「せやね。裸で一緒に寝たりはするよ。けど、乱ちゃん、途中でやめてまうねん。」
 
その説明だけで、そういった方面に知識の乏しい良牙でも想像がついた。
つまり、右京は完全に処女を失ったわけではないということだ。
良牙は指先にまで緊張が走るのを感じた。まだチャンスがある……? 
 
(な、何を考えているんだ、おれは。別に右京がまだだとか言ったって、
 おれには何の関係もないのに。)
 
良牙は頭の中の煩悩をかき消そうと必死だった。


「最初は嬉しかってん。乱ちゃん、うちが痛がる素振り見せたら、
 『良いよ。うっちゃんの心の準備ができるまで待つから』ってゆうてくれて……。」
 
良牙の脳裏に妄想が膨らむ。
よく知る二人のそういう行為を想像してしまうと、照れくさいような、恥ずかしいような気がして、
そして、とてつもない罪悪感が湧いてくる。
自分にとっての二人はそんな対象ではないと思っていたのに。
あれこれ考えて赤面する良牙をよそに、右京は話を続ける。
 
「せやけど、何度もそんなん続いたら……。不安になるわ……。ちょびっとだけやけど……。」
 
良牙にはなんとなくだが、乱馬の気持ちはわかるような気がした。
自分なら好きな女と裸同士になった状態で、途中でやめることなどできそうにはない。
だが、乱馬は、自分の欲望を抑え切れるほどに、右京のことを思っているのだろう。
良牙は話を聞いて、乱馬に対して尊敬のようなものを感じてしまった。
ただ共に眠るだけで満足できるだなんて、優し過ぎるというのか、馬鹿というのか。
 
「うち……そんな魅力ないんやろか……?」
 
別の男のことを考えている横顔。完全に自分のことは眼中にない横顔。
そんな顔を見ていると、なんだか悔しい思いがするのに、目が離せない。
どうしようもなく色っぽくて、激しく女を感じさせる。
右京の後ろ向きな考えを、『そんなことはない』と否定してやりたいが、
そう言ってしまうと、なんだか乱馬に敗北するような気がして、口には出せない。
 
「その……立たない……ってことか?」
 
言えない言葉の代わりに、そう問いかけることで紛らわす。
右京は目を閉じ、頭を横に振った。
 
「そんなことはなさそうやった。触ってみたし。」
「ふ、ふーん……。」
 
良牙は自分の愚かさを呪った。まったく、変な質問をしてしまったものだ。
それで慌てたためか、誤って側にあったグラスを落としてしまう。
 
ガシャン! 
 
グラスが割れる音に、すぐさま右京がカウンターから出て来る。


「あちゃー。まあ、割と安物やったしな。」
 
素手でガラスの破片を拾い上げようとした右京に、グラスを落とした瞬間に
椅子から立ち上がっていた良牙が駆け寄る。
 
「お、おい、良いよ、おれが落としちまったんだし、おれが片付けを……。」
「へーき、へーき、気にせんでっ……!?」
 
くるりと振り向いた右京の言葉の最後が、何かに遮られた。
右京の眼前にあったのは良牙の瞳。言葉を遮ったのは、良牙の唇だった。
なんという偶然だろうか。良牙が心配のあまりに右京に近づき過ぎていたとはいえ、
まるでお話の中に都合よく出てくるような、あまりにもでき過ぎた偶然。
即座に二人はお互いから離れたが、唇にはまだ感触が残っている。
 
「じ、事故や、な? そうやろ? こんなんキスのうちにも入らんわ、なあ?」
 
唇を手で覆い、右京が苦笑しながら取り繕う。
だが、先日から何度も続くこうした運命のいたずらとでも言うべき出来事の連続に、
良牙の頭の中は右京への良からぬ思いでいっぱいだった。
しばしの逡巡ののち、良牙は右京に近づくと、腕を引き寄せ、自分の胸の中に彼女を抱いた。
戸惑う右京の鼻腔を乱馬とは違う男の匂いがくすぐる。
 
「な、何? 何するん?」
 
右京が顔を上げると、良牙はそのあごをしっかりと捕らえて唇に唇を寄せた。
呼吸ができず、声も上げられない。
辛うじて右京にできたのは、目を閉じて自分の身に起こっている出来事を見ないように
することだけだった。
だが、良牙の唇は荒々しく右京の唇をこじ開けさせ、舌を侵入させて来る。
右京がいくら頭の中で否定しようとしても、それを打ち消すかのように、
確実な感触が彼女を襲う。
 
「これは確実に事故じゃねえよな。」
 
良牙の腕はがっしりと右京の体を捕らえて簡単に離してはくれない。
焦る右京は、自分の胸に異質な触感があるのに気付いた。
良牙が着物の襟口から少しずつ指先を侵入させている。
右京は、一つだけ拾い上げていたガラスの破片を落とし、
再び塞がれた口内や胸に与えられる快楽に身を任せた。


腕の中から逃れようと右京が身をよじると、更に強い力で良牙が押さえつける。
熱を帯びた真剣な眼差しに、右京の心も揺れる。
 
「あ、あかんよ……。何すんの、いきなり……。」
 
口ではそう言っていても、体では大した抵抗をしてはいなかった。
襟口を広げられ、帯をほどかれても、されるがままだ。
良牙は立ったまま右京を抱き締め、むき出しにさせた肩に吸い付くようにキスをする。
そうしながら、サラシに包まれただけの胸に手を出し始める。
 
「さっき言ってたこと……。」
「へ? んっ……。」
 
布の上からもしっかりとその場所がわかる。
良牙の指先は確実に右京の乳首に触れていて、その形状をなぞる。
右京は痛いような痒いような、そのどちらでもないような不思議な感覚に、
息を漏らしてしまう。
その色っぽい響きが良牙の男としての部分に火をつける。
 
「お前に魅力がないなんて、そんなことねえよ。」
「そ、そないなことこんな状態で言われたって……。」
「説得力がないか?」
「そ、そういう問題ちゃうし……。う、うち……ああんっ……!」
 
サラシ越しに乳首を舐められ、右京はたまらず喘いだ。
最初はつんつんと舌でつつくように、そして、唾液で布が濡れて、
乳首の形がくっきりと浮き出てくると、優しく唇で挟む。
そんな風に丁寧に攻められ、右京は甘い声をあげずにはいられなかった。


良牙は確かに右京に惹かれていた。その姿に興奮していた。
だが、昂ぶる感情の波の中にひとすじ陰がさす。
右京にこうして触れる男は自分が初めてではない。
乱馬に触れられていたからこそ、こんな風に右京は簡単に喘ぎ声を漏らすのだ。
自分の愛撫にこんなに敏感に反応するのは、乱馬がそれまでに開発しているからだ。
 
「も、もう……やめて……。このことは誰にも言わんから……。
 乱ちゃんにも言わんから……。だから、もう……。」
 
右京が哀願する。
切なくなるような泣きそうな声に胸の奥がチクりと痛むが、
良牙は右京から離れようとはしない。
彼女をいつの間にか通常とは逆の向きになっていた椅子に座らせ、
その背中をカウンターのへりに押し付けさせる。
そのまま強引にサラシを剥ぎ取るように下ろすと、形の良い乳房が弾けるように飛び出した。
 
「み、みんといて……。いやぁ……。」
 
か細い声はすぐに甘い鳴き声に変わった。
直接の刺激はやはり、それまでの何倍もの快感となって右京を侵略する。
良牙は、その手の平で舐めるように触れていく。
数日前に一瞬だけ目にしたその白い肌を、今はじっくりと見ることができる。
皮膚の隅々まではっきりと見える。
細かな肌理から、乱馬に数日前につけられたと見える赤い痕まで。
良牙はなんだか悔しくなって、その痕から少しずれたところに唇を押し付ける。
そして、吸い付く。もっと強く、消えにくいようにと痕をつける。


「はあん……。」
 
右京の声が脳に響く。
いくつもそうして痕をつけるたびに、右京が声をあげるので、良牙はますます調子に乗る。
硬く尖った胸の先端を口に含めば、右京は更に熱い吐息を漏らす。
胸のあちこちを隈なく愛撫され続けている右京は、良牙の手が下半身に伸びるのに
気付かず、何の抵抗もしなかった。
気付いてからも、言葉で拒否することすらせず、脱がされるままだった。
 
「凄い……。」
 
だらしなく開かれた股間の眺めに、良牙は思わず息を呑んだ。
初めて目にするそれは、少しグロテスクにも思えたが、同時に魅力的でもあった。
とろとろと流れ出ている粘液が光を反射する。誘惑するかのようにキラキラと光る。
右京は拘束されているわけでもないのに、それを隠そうともしないので、
良牙は引き寄せられるようにそこに顔を近づけた。女の香りが嗅覚を刺す。
 
「はぅっ……。やっ……いやぁ……。」
 
ふうっと息を吹きかけてみただけでこの反応だ。
良牙は鼓動が高く、速くなるのを感じていた。
じっくりと観察しながら、濡れる粘膜を指でなぞっていくと、
面白いように顔を歪めたり、体をよじったり、切ない声をあげたりする右京が見られる。


だが、十数分ほどそんなふうに右京のあられもない姿態を楽しむと、
良牙はそれ以上右京をいじるのをやめてしまった。
そして、おもむろに立ち上がり、右京の側から離れた。
苦しいほどの快感に耐えていた右京も、突然の解放に驚いて良牙を見上げる。
 
「悪かったよ。右京。」
 
それだけ言って良牙は背を向けた。
良牙の中には右京に対する罪悪感があった。
右京は愛撫を受けながらも、何度も「いやだ」と言うので、
次第に良牙の熱も冷めてしまったのだった。
 
(ふっ……。おれも乱馬と同じか……。嫌がる女は抱けないぜ。)
 
心の中で自嘲して立ち去ろうとする良牙の背中に、暖かい感触がまとわりついた。
わざわざ振り向かなくても良牙にはわかった。
この店には二人きりしかいないのだ。抱きついた相手は右京に間違いない。
 
「うちをこのまま放り出す気?」
「い、いやぁ……。やっぱり他人の女には手出したらまずいかなあと……。」
「散々いじり倒したくせにそれかい! それやったら最初から触らんといて。」
 
おずおずと体に回される右京の腕が、少し震えているように良牙には感じられた。
右京の声は背骨を通して良牙の脳に伝わる。
 
「もう、うちはお預け食らうのはイヤや。」
 
服の裾から、右京の手が入り込んで来るのを良牙は感じた。
少し冷たい指先が、遠慮がちに脇腹辺りを撫でている。
良牙はその手をとり、たぐり寄せるように胸の方に引きつけながら、彼女の方に向いた。
 
「良いのか? 本当に。」
 
右京は微笑む。その笑顔に良牙の心臓も高鳴る。
こんなに可愛らしく笑う女に、今までどうして惹かれなかったのかわからないくらいだ。
 
「うん。続きしよ。」
 
そして二人は、布団のある部屋に向かった。


布団の上では、形勢が逆転していた。
右京は自分の体に残っていた布を脱ぎ去ると、良牙を布団の上に押し倒して、
その体に馬乗りになった。
そしてまずは上半身から裸に剥き、鍛え上げられた肉体に指を滑らせた。
 
「ええ体つきやねぇ。乱ちゃんに負けず劣らずやね。」
「なっ……! 乱馬なんかと比べるなよ。」
「あー、はいはい。悪かったなぁ。」
 
裸の右京に愛しそうに触れられて、良牙の男の象徴は最大限に大きくなっていた。
下から仰ぎ見る右京の乳房は、少し重たげにぶら下がっている。
良牙が身を起こし、その胸に触れようとすると、右京はそれを阻止して、
良牙の体の上にゆっくりと倒れ込み、胸を合わせた。
顔は良牙の顔に触れる寸前で止め、至近距離から見下ろしている。
右京の髪が頬にかかり、良牙は少しくすぐったいのだが、笑い出しそうなのは我慢する。
 
「こうして見るとそれなりにええ男やねぇ。」
「それなりに……って何だよ。」
「ふふ。ごめんなぁ。ほな、普通にええ男。」
「普通にっていうのもな……。」
 
良牙は少し顔を持ち上げると、その生意気な唇に軽く唇を当て、すぐに離した。
右京はしばし驚いた顔をしていたが、良牙の顔を両手で挟むと、ふさぐように唇を重ねた。
悔しくなるほどに巧みな舌使いだった。
右京が女だからだろうか? それとも、何度も乱馬と交わしているからだろうか? 
 
「ほな、そろそろ……。」
 
語尾は曖昧に濁して、右京がその両手を下へ下へとおろしてゆく。
裸の体を経由する指先は、じらすようにゆっくりと動いてゆく。
完全に右京にリードされてしまっている。
良牙は心のどこかに何か釈然としないものを感じながらも、期待に胸を躍らせていた。


良牙の下半身に身につけていたものが一気に引きずり下ろされる。
そこにたどり着くまでにはゆっくりだったのに、良牙の腰に到達した後の右京の動きは素早かった。
勢いよく反り上がった男の象徴が右京の視線の下に晒され、良牙は少し気恥ずかしい思いになった。
赤面して顔を背けた直後、その意識していた部分が生ぬるい感触に包まれ、思わず声を荒げた。
 
「うっ……右京っ……! お、お前っ、何して……。」
 
右京は髪をかき上げながら、良牙の股の間で顔を動かしていた。
口がいっぱいになっているため、すぐには返事をしない。
 
「何って……? こうしてやらんとおっきくならんのやろ?」
 
答え終わるが否や、右京は再びそれを口に含んで舌を動かし始める。
ぬるい口の中で、小さな舌がゆっくりと、ときに激しく動く。
ザラザラとした感触は、欲望を掻き立てる刺激としては強過ぎる。
生まれて初めて覚えるその快感に、良牙は必死で耐える。
下半身に意識して力を入れ、ともすれば爆発してしまいそうな気持ちをぐっと堪える。
片方に寄せられた長い髪。覗くうなじ。右京は艶かしく、美しかった。
 
(くそっ……乱馬の野郎……! 右京にこんなこと覚えさせやがって……!)
 
恋敵に対する怒りがわく一方で、敗北感のようなものも覚えていた。
良牙のそれはもう限界いっぱいに隆起しているのに、右京にはそれがわからないらしい。
彼女がそう判断したのは、乱馬のそれと比較した結果というのは容易に想像がついた。
 
だが、認めたくは無い。
その思いは、一心不乱に口全体で奉仕し続けている右京への邪悪な思いに変貌する。
 
「なあ……まだかなあ? うち、もう疲れてしもたわ。」
 
その台詞を言うためだけに右京が口を離した瞬間、白濁した液が彼女の顔面に飛び散った。
顔だけではなく、その髪にも、首にも、容赦なく白い液は降りかかった。
最初は何をされたのかよくわかっていなかった右京も、無意識に顔を拭ったときの感触で気付く。


「いやぁっ……! 何するん? こんなん乱ちゃんにもされたことないのに……。」
 
鼻先や頬についた白濁液を手の甲で拭う右京を眺めていると、申し訳ないと思いつつも、
良牙の顔には思わず笑みが浮かんでしまう。
子供っぽいその仕草が可愛らしい。先ほどまでの小悪魔的な魅力とはまた違う右京の一面だ。
 
「あー、もう、なんや、かぴかぴするやん……。」
 
都合よく近くに置いてあったタオルを拾い、右京は顔や手を拭う。
液と共に匂いまでも染み込むような気がしたが、後で洗濯するのだから構わない。
だが、タオルでいくら拭っても、完全に落とし切れるものでもなく、
右京の顔に、髪に、その痕跡は未だに残っていた。
 
「こんなことされるんやったら、やらな良かったなぁ……。」
 
溜め息と共に言葉を吐き出した右京を、いつの間にか起き上がっていた良牙が布団の上に押し倒していた。
再度の形勢逆転。掴んでいたタオルが手から離れていく。
驚く右京の腰の上にまたがり、両腕を押さえて、抵抗のしにくい態勢をとる良牙。
怯えた瞳に見上げられ、少し躊躇する気持ちも生まれるが、構わず良牙は右京の唇を奪っていた。
舌まで入れる濃厚なキスをする。
先ほどまでされていた行為のことはひとまず記憶から排除している。
 
「嘘をつけ。さっきのはどう見ても楽しんでる顔だったぞ。」
 
良牙は適当なでまかせを言ってみただけなのだが、右京は何故か顔を赤らめてそっぽを向いた。
口を尖らせながら言い訳を探す。
 
「で、でも、まさかあんなに早く出すなんて思わへんかったし……。」
 
その言い方がどこか少し馬鹿にしている気がして、良牙は憤ったが、ふとあることに思い至った。
右京は確か、未だ乱馬に愛され切れていないという鬱憤が溜まっていたのではなかったか。
だとすれば、右京の中では、顔にかけられたことに対するよりも、
最後までできないかもしれないという不安の方が大きくて、それが後悔の言葉となっているのだ。
 
「安心しろ。ちゃんと抱いてやるから。」
 
出したばかりで、まだしばらくは交わることはできそうにはなかったが、
良牙は右京の手を握って約束した。腕を押さえつけていた手を伸ばして、右京の手に到達させたのだ。
 
右京は心の中を見透かされた気持ちになって、顔を真っ赤に染めたが、
良牙の目を見ないようにしながら小さく、しかし、確かにうなずいた。


(なんでうちこんな姿になってんねやろ……。)
 
お互いに全裸という状態で絡み合いながら、熱い吐息で冷えた空気を白くさせながら、
右京の中には少しずつ冷静さが戻って来ていた。
 
(乱ちゃんに合わす顔がないなあ……。どないしよ。)
 
しかし、もう既に遅い。良牙はがっちりと体を抱き締めていて、離れることなどできそうにないし、
一度乾き切ってしまった自分の股間も、熱くしびれるような快感に燃え、じんわり濡れている。
ここまでは何度も乱馬としてきた。だが、その先は……? 
 
「は……ぁん……。」
 
良牙の手がその濡れる場所に伸びる。
その刹那にあげた甘く切ない声は良牙の聴覚を激しく刺激したらしく、
溢れる分泌液を塗り込むかのように、指先の動く範囲を広げてくる。
そして、その指先が徐々に割れ目の中まで入り込もうとしたときだった。
 
「いたっ……。」
 
快感に漏れる甘いあえぎ声とは明らかに違う。
驚いて思わず引っ込めようとした良牙の手を、右京が止める。
 
「続けて欲しいのか? でも……。」
「ええねん。せやけど、あんま奥まではやめて。」
「わかった。それじゃ、痛くないようにしてやる。」
 
良牙は体を下げていき、右京の両脚の間に顔を埋めた。
次の瞬間、それまでで最も大音量の右京の声が、静かだった部屋に響き渡った。


しつこいくらいに良牙が攻め続けた結果、右京には十分に準備ができたように見えた。
目にはうっすらと涙を浮かべ、肩で息をしている右京が誰より愛しく思えてきている。
良牙は、萎んでいたものが再びしっかりと膨らみ、硬くなっているのを指先でも確認すると、
開かれたままの右京の股間にあてがった。
 
穢したい。その全てを。
美しく咲き乱れる花にも似た笑顔を。
なめらかに伸びるその肢体を。
他の男が到達したことのない奥の奥まで自分の色に染め上げたい。
良牙は少しずつ、右京の体内に押し込んでいく。
 
「力を抜けよ。そうすれば楽だからな。」
 
右京は目を閉じたままうなずき、言われた通りに力を抜こうとするのだが、
異物感にどうしても体が拒否反応を示してしまって上手くいかない。
激しい痛みに耐えながら、右京は良牙の背中に腕を回した。
 
右京の体内に侵入しようと奮闘する良牙の脳裏には、乱馬の言葉がよみがえっている。
 
『お前さあ、ひょっとして、初めて優しくしてくれた女があかねだったから
 あかねにこだわってるだけじゃねーのか?』
 
(ああ、その通りだ、乱馬。おれは優しくしてくれた女になら誰にでもなびくような
 そんな優柔不断な男だったんだ……。)
 
頭の中でも鮮明に浮かぶ憎らしい顔。
何もかも自分の上をいっている男の、憎くてたまらない微笑みだ。
 
(だけど……、お前が何を言おうが、何をしようが、右京の初めてはおれだってのは
 変わらないんだからな。)
 
思い出しても嫌になるものは記憶から吹き飛ばして、良牙はただ目の前の右京に専念した。


「どうしてくれるのん? うち、乱ちゃんに合わす顔がないわ。」
 
薄い掛け布団で体を包んだ右京が頬を膨らませた。
結局、良牙が再び出すことまではできなかったが、二人ともそれなりに満足していた。
良牙のそれは完全に右京の体に入りきったのは事実なのだ。
あとはおいおい右京が慣れていくだけだろう。誰の体を相手にするのかはわからないが。
 
「ま、いいんじゃねえの? これからは三人でやれば。」
「……は?」
 
良牙の前向き過ぎる意見に、右京が思わず声を荒げた。
 
「えっと……もちろん、乱馬は女の姿でな。」
「あんたが楽しいだけやん!」
 
更なるボケに対して間髪を入れない、的確なツッコミを受けたので、良牙は苦笑した。
可愛らしく膨らませている右京の頬を指でつつきながら、謝罪の言葉を漏らす。
 
「嘘だよ。ごめんな? 穢しちまって。」
 
右京はきょとんとした顔をし、微笑みながら良牙の肩にもたれかかる。
 
「そんなことあらへん。うち、なんか逆に綺麗になった気するもん。」
 
良牙は気のせいだろうと、一蹴しようとしたが、こちらを見上げてくる右京の姿は、
確かに以前よりも大人びて綺麗になったように見えた。
 
「でも、なんでだろうな? 急に変な気分になったんだよ。」
 
苦し紛れに良牙が話題を転換する。
右京は記憶の糸を手繰り寄せ、いつ変化が起きたのか探るような目つきをした。
そして、あることに思い当たった。


「ひょ、ひょっとして、特別メニューのせいか!?」
 
店に迎え入れたときに食べさせた豚玉のお好み焼き。
右京は、寒空の下で旅をしてきた良牙に、少しでも栄養をつけさせようと、
秘伝のスタミナ満点ソースを使ってお好み焼きを焼いたはずだった。
 
「乱ちゃんに食べさそうと思たの……。間違えて入れたんかも……。」
 
それはとあるルートから仕入れた怪しげな薬だった。
心の中の欲望を増幅させる作用を持つという薬で、右京は煮え切らない乱馬に対して
使ってみようと購入したのだった。
それが入っていた瓶は、確かソースを入れた瓶の隣に置いてあったはずだ。
 
「そっか。そんじゃ、その薬のせいなんだから、今日のことはお互い水に流そうぜ。」
 
説明を受けた良牙はそう答えた。
右京がひどく申し訳無さそうに謝るので、そう答えざるを得なかった。
 
(薬のせいだけじゃないけどな。この気持ちは。)
 
しかし、右京が乱馬と別れることになるまで、良牙は思ったことを言うつもりは無かった。
それにそうなるのもそう遠い先のことではないだろうと、密かに思ってもいた。
いつの間にか白い朝の光が差し込み始める時間になっていた。
一睡もしていないが、良牙は身支度を始めた。また旅に出るつもりだった。
 
                                               (終わり)




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