著者 : 1K 氏
その2 ー >>606
開始:05/04/10
最終:05/05/09
その2 − >>653
【 無 題
】
「……子供らはもう寝たで……」
「……ああ」
女は子供達の部屋から出てきて言った。男は布団の上で仰向けで寝ながら応える。
「さぁてと……風呂でも入ろかな」
女は最近増築した風呂場へゆっくり歩いていった。
8年前のあの日……男は大きな喪失感を感じていた。
(ウっちゃんと良牙が付き合ってたのか……)
何ともいえない喪失感、これまで感じたことの無い気持ちだった。幼なじみであり、もう一人の自分の許嫁が他の男と付き合っている……男が考えてもみなかった結末。
(これが……ウっちゃんの出した答えなのか……)
二人も許嫁がいて、自分を婿にするなんて言う女の子までいる……モテ過ぎと言っても過言では無い男にとって初めての体験。
結局あまり眠れないまま朝になり、乱馬は一人、朝稽古を始めた。まだ、かすみすら起きてこない時間だ。一人ただひたすらブロックを破壊していく。
「破っ……あ」
邪念が入ったのか、指を切ってしまった。
「……クソっ」
どうしてこんなに昨日の事を思い出すのだろう。なぜか一つ一つが鮮明に浮かび上がってくる。 「行こか、良牙」
右京が良牙を選んだ……乱馬は口では無関心を装う。自分に、仕方がない……ありがたい……などと言い聞かせる。
傷が風にしみる。あかねは寝坊でもしたのか庭には出てこなかった。
その日から乱馬は右京と少しずつ距離を置こうとし始めた。もう取り返しがつかないと悟ったのか、自分からは絶対話しかけないし右京が話しかけても、抱きついても、少し笑って生返事をするだけ。
その笑顔が悲しげで、なんとなく自虐的なものだとあかねも、右京も、クラスの女子の一部も気付いていた。
(乱馬あれがあって右京と距離置こうとしてる?)
(乱ちゃんどないしたんやろ?いつもとちょっと違う。破恋洞のつかれでもなさそうやし)
何人かが不思議そうに乱馬をチラチラ見るようになった頃、なびきがたまたま1ーFを軽くのぞいた。なびきは朝から乱馬の異変に気付いていた。妙に辛そうで、決心したような顔、昨日の夜には無かった傷。
(普段あれだけ集中して稽古してるのに、あんな簡単な稽古でケガするし、ウっちゃんとの関係がギクシャクしてるし・・・こりゃ昨日あかねとウっちゃんと何かあったわね・・・)
「乱馬よ、修行にでも行ったらどうだ?」
ここ最近の乱馬は稽古に集中できていなかった。いや、正確にいうと普段より力をいれているだろう。
が、どこか引っ掛かるものがあるのか、これまで出来ていた動きが出来なかったり、簡単にケガをしたり、組み手でもスキが簡単にできたり。
とにかくだれが見ても、武道家として弱くなっていた。本人も動きが荒かったりケガをする度に首をひねっている。
(そうしようかな……最近修行に行ってなかったしな)
少し考えてから、ああ、そうするぜ、と準備を始めた。行くと決めればすぐ出発する。
「ところで親父は行かねえのか?」
「ワシはちよっと忙しい」
「あっそ。今回もいつもんとこにいるから、みんなにそういっといてくれ」
乱馬はそう言って天道家を後にした。
「う〜ん」
乱馬は隣に誰かがいるのに気づいて目が覚めた。夜明けにこんな山中で誰かに会うなんて滅多にない、テントとなるとなおさらだ。
(え?)
大きめのマットの上で制服姿の右京が自分に寄り添って寝ている。
今、何となく会いたくない幼馴染。乱馬はもう何をどう考えればいいのかわからなくなってきた。
一方、右京は余程疲れているのか、かなりよく寝ている。こうして見れば学ランを着ていてもやはり女の子らしく見える。
(……ウっちゃん)
少しして、乱馬が起きたのに気づいたのか、右京も目覚めた。
「ウっちゃ……」
「乱ちゃん!」
右京は乱馬の言葉を遮り、乱馬に思いっきり抱きついた。
「ウチ……めっちゃ心配したんやで……」
右京は乱馬の胸の中で泣いていた。乱馬は呆然としている。
「最近乱ちゃん学校でもなんかおかしいし、なんも言わんといきなり出て行くし」
「……ごめん」